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東洋医学的解説

漢方では、体を五つの臓器(五臓)に分けてみていく方法がありますが、はその中の腎(じん)と関係すると考えます。

椎間板ヘルニアも、腰に症状が出やすく骨の症状ですから、腎が弱いとなりやすいと考えます。

腎は老化とも深いつながりがあり、骨が丈夫、髪は黒くてつややか、若々しい、スタミナがある などの場合は腎が充実しており、骨がもろい、歯が弱い(ぬける)、白髪、疲れやすい、精力減退、物忘れしやすい など、年をとると出てくる症状がある場合は、腎が弱った状態=腎虚(じんきょ)と言えます。

また、漢方には「不通則痛(ふつうそくつう)」という言葉があります。
これは、流れるべき所が詰まってしまうと痛みが出るという意味です。
例えば、冷える(寒)などして血行が悪くなると、痛みやしびれが出るのもこのためです。

西洋的な考え方でも、椎間板ヘルニアによる痛みやしびれは、神経根が圧迫されたために血液不足となりエネルギーや栄養が不足して起こると考えます。このことは漢方的にも、「気」「血」が行き届かない状態として捉えています。

気(き):エネルギー。元気の源。血(けつ)をめぐらせる原動力にもなります。
血(けつ):栄養や潤いを与える働きがあります。

~椎間板ヘルニアの原因~
漢方では、なぜそのようになってしまったのか、
環境(寒さ・湿度など)、生活スタイル、精神面 なども考慮しながら、身体全体のバランスが乱れた結果として椎間板ヘルニアの症状が出て来ると考えていきます。

では、漢方的にはどのようなことが原因となるのか、次によく見られるタイプをご紹介します。
ただし、実際はひとつの原因からではなく、いつくかの原因が重なって症状が出ている場合が多くみられます。

  • 腎虚

腎が弱ると骨が弱くなってきます。
また椎間板の水分が減って弱くなった状態は、腎の陰(潤す働きがあります)が不足した状態(腎陰虚(じんいんきょ))と関係があります。腎は次のような状態や積み重ねで弱くなってきます。

もともと腎が弱い

母親が高齢で出産した子供である、虚弱体質、若白髪である、精力が無い、根気が続かないなどの場合、腎が弱いと考えられます。

過労

腎は生命力の源で、気血のもととなるものが蓄えられています。過労が続くと生きていくために必要な腎の蓄えを消耗していきます。

老化
慢性病

冷え

腎の陽(よう)が不足すると、身体を温め、機能させる働きが弱まります。

不規則な生活(食事の不摂生・夜更かしなど)

腎の蓄えは、誰でも年齢と共に減ってきます。しかし、それを少しずつ補っているのは毎日の食事です。また、きちんとした睡眠をとっていないと、身体の陰陽(いんよう)のバランスが崩れて最終的には腎に影響してきます。

<症状の特徴>

足腰が弱い
足腰がだるい
疲れると悪化する
横になって休むと軽減する
慢性化して繰り返しやすい  など

さらに陰陽のどちらが不足しているのかによって、次のような症状を伴います。

陽虚(ようきょ)の場合
手足が冷える(低体温)、気力が出ない など

陰虚(いんきょ)の場合
寝汗をかく、のぼせる、手足がほてる、口が乾く、そわそわして眠れない など

<漢方>

腎を補うものを使っていきます。
陽虚に偏る場合は陽を補い、陰虚に偏る場合は陰を補うなどして、陰陽のバランスをとっていきます。
ただし胃腸が弱く、毎日の生活の中で必要なものを補えないような場合は、まずは消化機能を高めて状態をみながら調節していく必要があります。

  • 寒邪(かんじゃ)や湿邪(しつじゃ)の影響を受ける (邪:体に悪影響を与える因子)

寒邪や湿邪の影響を受けると、腰や足の気血の流れが邪魔されて痛みやしびれがでてきます。
きっかけとしては次のようなものがあります。

寒く湿気の多いところに長く居る(住居・職場)
雨にぬれる
汗をかいた後、風に当たる
濡れた衣類を着ている
風邪をひく
冷やす  など

<症状の特徴>

曇りや雨の日に悪化する
冷えると悪化する
腰が冷えて重だるい  など

<漢方>

水分代謝を手助けしたり、温めて経脈(気血の通り道)の流れを良くするようなものを使います。
また、腎の陽が足りないために温める力が弱かったり、胃腸の機能が低下して水分をうまく代謝できない、などの場合には寒邪や湿邪を受けやすいため、状態をみながら弱い所を補っていく必要もあります。

  • 気血の流れが滞る(気滞血オ(きたいけつお))

1 や 2 が原因となることもありますが、他には次のようなものが挙げられます。

捻挫、打撲
ぎっくり腰
無理な姿勢
ストレスや緊張
血をめぐらせる力が弱い(気虚・陽虚)  など

<症状の特徴>

刺すような痛み
痛む場所は固定している
押すと痛む
夜に悪化する  など

<漢方>

気血の流れを手助けするものを使います。
ただし、もともと血をめぐらせる力がない場合は必要なものを補い、余分なものが邪魔をして滞りの原因となっている場合にはそれを取り除くなど、状態を確認しながら使っていきます。

~椎間板ヘルニアの予防~

姿勢を正す

姿勢が悪いと気血の流れも停滞してしまいます。

運動をして筋力をつける

体力がつくと抵抗力も増して、邪気(寒邪や湿邪など)をはね返す力もUPします。

無理をしない、疲れを溜めない

無理が続くと気(元気)を消耗してしまい、余分な負荷がかかりやすくなったり、気血の流れも滞りやすくなります。

腰を冷やさない
濡れたまま風に当たらない
毎日の食事をバランスよく摂る
睡眠をきちんととる

できるだけ夜10~2時の間は眠るようにしましょう。
この間に熟睡することで、ホルモンや自律神経のバランスが整い、気や陰も補われます。

など

西洋医学的解説

ヘルニアとは、体の組織が本来ある場所からはみだした状態を言います。
ここでは主に、腰椎椎間板(ようついついかんばん)ヘルニアについて解説していきます。

  • 背骨と椎間板の構造

脊柱(背骨)は多数の椎骨(ついこつ)が積み重なってできており、上から頚椎(けいつい)、胸椎(きょうつい)、腰椎(ようつい)、仙椎(せんつい)、尾椎(びつい)とつながっています。(仙椎、尾椎は骨盤の一部になっています。)
椎骨の腹側には円柱形の椎体と呼ばれる部分があり、上下の椎体と椎体の間に椎間板があります。そして、その腹側は前縦靭帯、背側は後縦靭帯によって補強されています。また、椎体・椎間板の背側には脊柱管(せきちゅうかん)と呼ばれる管があり、脊髄や神経の束が通っています。(脊髄は脳から続く太い神経の束で、成人では腰椎の上部までで終わり、その下は脊髄からでている神経根が伸びています。)
椎間板は、線維輪(せんいりん)という囲いの中に髄核(ずいかく)と呼ばれる、ほとんどが水分でできたゲル状の物質が満たされてできており、体にかかった負担を軽減するためのクッションの働きをしています。

  • 椎間板ヘルニアとは

老化によって髄核の水分が減ったり、線維輪が衰えるなどしてその負荷に耐えられなくなると、髄核が線維輪を押しやったり、線維輪を破って飛び出して神経根を圧迫します。この状態が椎間板ヘルニアです。
髄核はどの方向にも飛び出す可能性がありますが、後ろ側(背中側)に出ることが多く、そこは脊柱管から出ていく神経があるため、これが圧迫されるとその神経が関わっている場所に症状が出てきます。(例えば腰椎の脊柱管からでた神経根は数本が合流して坐骨神経となっています。したがって、この神経根が圧迫されると脚の痛みやしびれが出ます。)

  • 椎間板ヘルニアの症状

ヘルニアの場所や飛び出し方、圧迫する神経によって症状は変わってきます。
腰椎椎間板ヘルニアの場合には、次のような症状がみられます。

強い腰痛

後縦靭帯や線維輪が圧迫されるためです。

片方の脚に痛みやしびれ

飛び出した椎間板が坐骨神経を圧迫するためで、腰からおしり・ももの後ろ・ふくらはぎ・つま先まで響くように痛みます。(坐骨神経痛)
また、神経根が圧迫されるために麻痺状態となり、しびれがでます。
また痛みはじっとしている時にはありませんが、動かすと感じます。特に、上体を前に倒すときに痛みがから脚の後ろ側へ広がります。

側彎変形

圧迫を弱めて痛みを和らげるために、体を傾けた姿勢をとるようになります。

膀胱直腸障害

腰椎の高部(第1・第2腰椎椎間板)でヘルニアが起きた場合や、
脊柱管の中央部を圧迫するヘルニア(正中ヘルニア)に多くみられます。

動作をするときは骨盤が起点となるため、骨盤に近いと負担がより大きくなります。
したがって腰椎椎間板ヘルニアのほとんどが、下の2つの椎間板に起きています。(腰椎には5つの椎間板があります。)

  • 椎間板の変化と症状の関係

こわれた椎間板が後縦靭帯を強く圧迫している時には腰痛が強くなりますが、後縦靭帯の一部が破けて椎間板の中の圧力が弱まると腰痛が軽くなります。しかし、こわれた椎間板が飛び出して神経根を圧迫すると、おしりから足にかけての痛みやしびれが強くなってきます。
したがって、腰痛が軽くなると治ったと勘違いする方もいますが、実際は治ったわけではありません。

  • 年齢と症状の関係

腰椎椎間板ヘルニアは若い方に見られる症状ですが、60歳以上の方にも見られることがあります。ただし、年齢と共に椎間板の水分が少なくなり柔らかくなっているため、椎間板内部の圧力も小さくなります。そのため、若い方のように堅くこわれた椎間板が後縦靭帯を破って神経根を強く刺激することは少なく、痛みは軽くなります。
しかし一方で、しびれや違和感が出ることが多いようです。

  • 腰椎椎間板ヘルニアになりやすい人

20歳代~30歳代に多くみられます
肉体労働をする人
長く車の座席に座っている人
激しい運動をする人    など

  • 病院にいく前に確認しておきましょう

いつから痛いのか?
徐々に痛くなったのか、急に痛くなったのか?
きっかけはあるのか?
どこがどのように痛むのか、しびれるのか?
排尿、排便の異常はあるのか?(尿が出ない、尿意がない、失禁する、便秘など)
どんな仕事をしているのか?
何か病気をしたことはあるか?あるいは病気をもっているか?
以前腰痛を経験したことはあるのか?(どのようなものか)

  • 腰椎椎間板ヘルニアの診察

まず、痛みの程度や腰から足へいく神経にどのくらいの障害があるのかなどを調べます。

・全身の姿勢や背骨のカーブの状態を観察。
・前屈したときや後ろへ反った時などの状態の確認。
・脚の痛みやしびれの部分の確認。
  仰向けに寝て膝を伸ばした状態で股関節を曲げた時痛みが出るかどうかなど。
・麻痺があるかどうか、筋肉が弱くなった所はあるかなどを確認。

画像検査(X線・CT検査・MRI検査など)
血液検査、尿検査・・・内臓の病気が疑われる場合     など

  • 腰椎椎間板ヘルニアの治療

保存療法と手術という方法がありますが、痛みで日常生活ができないなど特別な理由が無い限り、保存療法が優先されます。ここでは、保存療法についてご紹介します。

腰椎椎間板ヘルニアの保存療法
ヘルニアの約7割は、1ヶ月で日常生活に差し支えない位には軽くなるようです。

日常生活の改善 (姿勢・眠る時の体位や寝具について)
薬物治療 (消炎鎮痛薬・筋弛緩薬・血流改善薬など)
理学療法 (温める・牽引・コルセットの使用)
腰痛体操・・・状態に合わせたやり方などは医師に相談して行いましょう
神経ブロック注射 (痛みを抑える働きがあります)

  • 腰椎椎間板ヘルニアの予防

飛び出したヘルニアが椎間板の中に戻ることはありませんが、圧迫された神経が慣れてきて痛みが軽減したり、水分が減ってヘルニアが小さくなったり、周囲の血管から出てくる血液の成分によって分解されて自然に吸収されるなど、数年で神経根の圧迫はなくなることが多いと考えられています。
また、誰でも年とともに椎間板は弱くなっていきますし、腰椎の変性や障害があっても必ず症状がでるとも限りません。
したがって重要なことは、いかに予防し負担を減らすかということです。毎日の積み重ねを大切にしていきましょう。

普段から良い姿勢を保ち、余分な負担をかけない
急な動作や無理な姿勢は避ける
ハイヒールは履かない。

筋力の無い人が履くと、姿勢も悪くなり腰への負担が大きくなります

適度な運動で筋力をつける

筋力がつくと腰の負担が軽減されます

無理をしない

腫れや炎症が治まっていないのに無理を続けると、椎間板への負担も大きくなります

冷やさない
バランスのとれた食事を摂る
疲れを溜めない
睡眠をきちんととる   など

  • 頚椎椎間板ヘルニアについて

軽い場合は、首や肩のこり痛み頭痛などの症状がみられますが、神経根(脊髄から手の方へ伸びていく神経)が圧迫されている場合、首や肩甲骨の内側の痛み、肩から手指にかけてのしびれ、筋力低下などがみられます。
また、髄核が脊柱管の真ん中に飛び出て脊髄を圧迫すると、手足のしびれ、指先の細かな作業ができない(ボタンをかけにくい、お箸を持ちにくい、字を書きづらいなど)、歩く時に足に力が入らない(特に階段の下り)、排尿や排便の異常(膀胱直腸障害)などが現れます。

最後に・・・
しびれや痛みは、椎間板ヘルニア以外にもさまざまな原因から起こります。
したがって、2,3日しても症状が軽減されない場合や、安静にしていても痛むような場合は医師の診察を受けましょう。

参考文献:「家庭の医学」 (保健同人社)
 「腰が痛い、足がしびれる、歩けない 腰痛」 (河端正也監修 NHK出版)
 「専門のお医者さんが語るQ&A腰痛」 (大井淑雄 大上仁志著 保健同人社)
 「今日の治療指針2005」 (医学書院)
 「病気の地図帳」 (監修 山口和克 講談社)

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